遺言執行者の権限明確化

従来、遺言執行者は旧民法1015条で「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定があったように相続人の代理人という立場で、相続人の代わりに遺言執行を行っていました。

令和1年7月の民法改正にて、遺言執行者が行える範囲が明確に条文上規定され、遺言執行者の権限が拡大されました。

(遺言執行者の権利義務)
第1012条
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺言の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

(遺言執行者の行為の効果)
第1015条
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

【第1015条改正前】
(遺言執行者の地位)
遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。

民法改正前の第1012条の条文は、「遺言の内容を実現するため」という最初の文言が抜けたものになります。

遺言執行者の職務は遺言の内容を実現することにあり必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではないことが明確化されました。
また、民法改正前の第1015条は「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」という条文規定がありましたが、改正後の民法にはこの条文規定が削除されました。
遺言執行者を「相続人の代理人」としてではなく、「被相続人の代理人」として、より公正な遺言執行を行えるようになりました。
そして、遺言執行者が行った①権限内で②遺言執行者であることを示してした行為は改正後の民法1015条でそのまま相続人に対して直接効力を有するよう規定されています。

条文内の詳細にについては以下条文の通りです。

①権限内の行為
(特定財産に関する遺言の執行)
第1014条
 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

改正後では、2項~3項が追加され、特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる」旨の遺言)があった場合にも、遺言執行者が対抗要件を具備するために必要な行為をできると定められました。
これにより、不動産を目的とする特定財産承継遺言がされた場合に、遺言執行者は被相続人が遺言で別段の意思を表示したときを除き、単独で、相続登記を申請することができるとされました。
従来は「相続させる」という遺言がある場合でも、遺言執行者が相続登記を申請できなかったため、相続人が相続登記をしない限り放置されてしまうケースが多々ありました。
また、対象財産が預貯金債権である場合に、遺言執行者に、預貯金債権の「解約」及びその「払戻し」ができる権限が明確に認められました。

②遺言執行者であることを示してした行為
(遺言執行者の任務の開始)
第1007条
 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

改正前には規定はなかった2項が追加されました。

遺言執行者の権限が強化されたこともあり、遺言執行者の有無は相続人にとって重大な利害関係を及ぼすため、遺言執行者に通知が義務付けられました。

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